イエス人脈ズ英国のロックバンドイエスは、1983年に「ロンリー・ハート」で全米1位を獲得し、グループ結成以来の大ヒットを記録する。立役者は、南アフリカ出身のトレバー・ラビンだ。
その後、すっかりトレバー・ラビンが中心となったサウンドで、イエスは1980年代を駆け抜ける。
しかし、その状況に、オリジナルメンバーのボーカリストであるジョン・アンダーソンは、非常に嫌悪感を感じていた。

そして新たな野望を考える。
なんと、イエスを脱退し、現在はイエスのメンバーから外れている全盛期のイエス(こわれもの・危機)のメンバーに声を掛けたのだ。
具体的には、スティーブ・ハウ(ギター)、ビル・ブラフォード(ドラム)、リック・ウエイクマン(キーボード)だ。彼らはロック・ミュージシャン離れした驚愕の演奏テクニックの持ち主で、そのテクニックを駆使して難解な曲を作り上げ、「こわれもの」「危機」と言った名作で、イエスに大きな名声をもたらしたメンバーだ。

そしてこのメンバー達を呼び寄せて「真のイエス」を作ろうとしたのだ。
これは、トレバー・ラビン加入後のイエスに、物足りなさを感じていた一部のオールドファンにとっては、涎モノの事件だった。

形としては、イエスから脱退して新しくイエスを作る。そしてレコード会社(アリスタ)と契約までしてしまった。

要は、一時期「二つのイエス」が存在する奇妙な状態となるのだ。

ジョン・アンダーソンは、かつてのイエスを「90125グループ」と呼び、事ある毎に不満をタラタラ漏らすようになる。特に、ビッグ・ジェネレーターからシングルカットされた曲「ラブ・ウィル・ファインド・アウェイ」に関しては、リード・ボーカルもトレバー・ラビンが歌ったこともあってか、「90125グループ」の象徴のように本当にクソミソに酷評していた。
確かに、かつてのイエスの歌詞は、哲学的な要素も多く、とても難解なものが多かった。それに対し、若いトレバー・ラビンの歌は、ストレートなラブソングばかりで、ともすれば軽薄に思えたのだろう。

そして、ジョン・アンダーソンは「自らがイエス」とばかり、「イエスの新作」を作るべく、スタジオに入り積極的にレコーディングを重ねる。

しかし、同じ名前のバンドが2つ存在するような、こんな事態が許されるはずはない。

経緯を追ってみたら明白なように、当然ながら「イエス」と名乗る権利は、ジョン・アンダーソンが言う「90125グループ(アトランティック)」側にあった。
そして悲しいかなイエスの人事権を握っているのは、ジョン・アンダーソンではなく、「ミスター・イエス」クリス・スクワイアなのだ。ジョン・アンダーソンも、結局、その駒に過ぎなかったことになる。
「ジョン・アンダーソンサイド(アリスタ)」側は当然のことながら敗訴。

abwhかくして、「イエス」の新作として作られたアルバムは、「イエス」の名を名乗ることができないために、「アンダーソン・ブラフォード・ウエイクマン・ハウ」という、何とも言えない名前で出すこととなった。1989年、1980年代が終わりを告げようとしていた時だ。

ベーシストとしては、ビル・ブラフォードの朋友トニー・レヴィン(キング・クリムゾン)を起用した。実績も力量もルックス(笑)も全く申し分無かったのだが、グループ名には加えられなかった。イエスの権利争いゴタゴタの関係上、正式メンバーの仲間には入れてもらえなかったのだ。かわいそうに。

サウンドとしては、ビル・ブラフォード+トニー・レヴィンのキング・クリムゾン連合による、引き締まったリズムが全体を支配している。サスガと唸る所も多い。それに、ギターはスティーブ・ハウが弾いているし、キーボードだってリック・ウエイクマンが弾いている。完成度が高かったのは事実だと思う。
しかし、何か物足りない。エキサイティングな要素が何か足りないのだ。やはりクリス・スクワイアのベースとコーラスだ。これが無いとなんか物足りないような気がした。

そして、曲も「90125グループ」の軽薄短小ポップ路線を否定するかのように、10分クラスの大曲が多く収録された。でも、それらもシングルカットされると4〜5分のバージョンとなり、聴いてみると、4〜5分のバージョンの方がまとまりが良くてカッコ良かったり。
要は、無理やり大作にするために、曲を引き伸ばしたのではないかと思われるような作りなのだ。なんだなんだ。昔のイエスの曲には、「曲が長い理由」がそれなりにあったような気がするのになあ。

更に、笑ったのは曲のタイトルだ。

「long lost brother of mine(長い間失っていた我が兄弟)」
「birthright(生得権)」
「quartet(4人組)」
「the order of the universe(世界の秩序)」
「let's pretend(要求しよう)」

なんか「90125グループ」に対する当てつけのようだ。トレバー・ラビンの曲を馬鹿にする割には、ずいぶんと幼稚だなあと思ったけど。


そして、このメンバーでライブ活動も積極的に行った。

abwhライブツアー/アルバムのタイトルは、
「an evening of yes music,plus」。
すなわち「イエスミュージックの夕べ」だ。本当に幼稚なまでの執着心だ。その様子を収めたCDやビデオも発売された。この時の公演は、ベースのトニー・レヴィンが体調不良の為、ジェフ・バーリンが見事に代役を務めている。

ビル・ブラフォードのドラムは流石で、イエスの曲が締って聞こえる。このライブ、これはこれで非常にいい。特に「危機」は非常にカッチリしていて、一瞬違和感があるが、耳慣れれば非常にカッコ良く聴こえる。が、それでもやはりクリス・スクワイアのベースとコーラスが恋しくなる時があるのだけれど。

来日公演の時は、トニー・レヴィンが参加した。武道館へ見に行ったのだけれど、ビル・ブラフォードと組んで、凄まじいプレイを聞かせてくれた。この時は見にって良かったと思ったものだ。

このアルバムとツアーの成功により、すっかり気を良くしたジョン・アンダーソンは、「アンダーソン・ブラフォード・ウエイクマン・ハウ」としての2作目の製作に取り掛かるのだが・・・。

続きはまた後日。