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東京都三鷹市にかつてあった「江ぐち」というラーメン屋さんについて書かれている小説だ。
かつて昭和59年(1984年)に出版された「近くへ行きたい。秘境としての近所ー舞台は”江ぐち”というラーメン屋。」という本が元になっていて、それにあとがきや著者のホームページの日記を付け足して、その結果、この本は昭和59年当時から「江ぐち」が閉店して後釜の「みたか」が開店する2010年迄の物語になっている。
いやいや、「江ぐち」の本の存在は知っていたけれども、これまで何となく避けていたところがあって、読んだのは初めてのことだった。
本を手に取ると一日で一気に読んでしまった。何しろ、前述の通り、私めも「江ぐち」の大ファンだったから。

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この本では『タクヤ』と呼ばれている小柄なオヤジさん(左下)、『アクマ』と呼ばれている背の高い男(中央)。そして『オニガワラ』と呼ばれるムスっとしたオッサン(右上)、3人の職人さんで「江ぐち」は成り立っていたのだけれども、この3人のことも良く書かれている。(敬称略)

ただ、私めの記憶によると『オニガワラ』に麺を茹でてもらったことがない。この本によると、以前は『オニガワラ』も麺を茹でていたのだな。『オニガワラ』はいつも『タクヤ』か『アクマ』に怒られ乍ら具を丼に載せていた。
ただ嬉しいことに、いつもモヤシは山盛り(コレもこの本に記述がある)。
私めのモヤシ好きは「江ぐち」に端を発しているのだろう。

一番多かったのが『タクヤ』『オニガワラ』の組み合わせ。次が『アクマ』『オニガワラ』で、『タクヤ』『アクマ』のゴールデンコンビに当たった事は非常に少なかったと思う。でも、この二人が組むと、どちらが麺を茹でようと、猪木ー坂口のような(古いな)息の合ったコンビネーションを見せてくれたのを覚えている。モヤシの盛りは少なかったが。

覚えているのは、夏の暑い日、「江ぐち」のビールが全て底をつき無くなってしまった。そこで『タクヤ』が『オニガワラ』に「隣からビールを借りてこい」と指示するも、なんかモジモジして行きづらそうな『オニガワラ』。しかし、更にキツく「借りてこいよ!」と怒る『タクヤ』には逆らえず、渋々隣の居酒屋へ。そして何本か左胸に瓶ビールを抱え、右手に数本瓶ビールをぶら下げて、居酒屋から出て来る『オニガワラ』の姿。その時の更にムスッとした表情は今でも良く覚えている。

東京在住で会社に入ったばかりの頃も良くお世話になった。
以前は夜も10時頃までやっていたから、週1回以上のペースで通っていた。会社の先輩を昼飯に連れて行った時「イマイチだな」と言われても、とにかく通った。
広島に行ってからも、東京出張の際は良く寄って食べた。
本当に好きだったのだ。

そういえば『タクヤ』が「もう1人のやつは体が悪いからねぇ〜」とこぼしていたのを覚えている。
そして、2〜3回に1回は当たっていた『アクマ』に当たる事が無くなり、『オニガワラ』の姿も消えた。最後は『タクヤ』一人で支えていたのだ。そのあたりもこの本に書かれている。

まさに、以前の地上にあった店から、ビルの地下へ移動になり、閉店するまでの「江ぐち」の歴史がこの本一冊に凝縮されているのだ。そして、この本を読んでいる間、あの時代にタイムスリップしたような、とても幸せな気持ちになれた。

現在は「みたか」となって、若いスタッフが「江ぐち」の味を引き継ぎ、新しい歴史を切り開いている。スープはだいぶスッキリした味わいになったが、一番の特徴である手打ち麺は往事のままだ。

ああ、食べたくなってきた。

江ぐち外観カラー
往事の江ぐち。

ビール+チャーシュー
ビール+チャシュー。

江ぐち
五目ワンタンメン。
黄色いワンタンは麺の下に沈んでいる。

みたか外観
みたか。

みたかビール+チャーシュー
みたかのビール+チャシュー。

みたか
みたかの五目ワンタンメン。
ワンタンは変わった。
そして麺を茹でてから後で載せる工程に変更された。